リトル・ディアレスト

雪降る街 彼が初めて
買い与えられたのが

当時最新モデルの
携帯電話である
私でした

四六時中ずっと一緒で
一番傍で見てきたよ

嬉しい事や悩み事
みんな受信して

この小さな
メモリーいっぱいに

溢れ出しそうな程の
記憶が積もる

覚えてる?
不意に落として必死に
探してくれた日の事を

けれどねぇ、
もう容量は限界で―

進学して 彼の友人は
次々に新機種へ

変更して古い携帯を
使う彼をバカにしてた

でもそんな事を気にする
素振りさえ見せず笑顔で

「思い出深い、
初めての相棒だからさ」

苦しかった 大切に
使ってくれていたけれど
限界は近くて

前のように役に立てなくて
ほらね、
すぐに充電切れてさ

もういいの。
楽しかったよ?
キミといて―

私なんかよりずっと
出来のいい子が
たくさんいるから

気にせず新しい子を
使ってあげて欲しいな

見た目も洗練されて
体重だって軽くて賢くて

悲しくなんてないよ?
機械にそんな感情が
あるわけないよ

淡い想いが
通じてかどうか

ようやく彼は
機種の変更を決めていた

その視界 この世界から
私は消えて
なくなってしまう―

けれど次に
目を覚ました時

変わらずそこには
彼の姿があった

メモリーを 魂だけを
新しい体に移されてた

「これからも
ずっと一緒さ。
よろしくね」

優しいその声に、
涙混じりの震えを返す



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Writer(s): last note.
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