女優ビッグバン

女優は死んだ
女優は死んだ

かつて栄華を誇った女優は
生きることを演じながらカビを
喰らい続け 醜く衰え
そして死んだ

名もなき有名人の女優は
生前カビだらけの部屋に
横たわって自分で自分を妊娠させた

女優が死んだ日
オレ達は産まれてきた
オレ達の腹に眠る女優は
記憶を取り戻して
犯した罪に涙を流し
皺くちゃになったオレ達の脳に
知性と愛情を注ぐ

愛を受けたオレ達は女優の役を辞め
自分を演じはじめた
演じないと生きていけないことは
女優時代から変わんなかったが
カビを一掃しながら子育てに興じた

子育てをする我が子を
育てているようで
自分自身を育てているようでもある
祖父母じみたオレ達が信じるものは
女優の死体だけで
それ以外は全てどうでもよかった

宗教 主義 政治 哲学
そんなのどうでもよかった
言葉で表された概念そのものが
ただ面倒だった

オレ達はただ感じていたいだけで
女優の死体に通じている
宇宙とか 子宮とか そういうものを
感じていたいだけだった

広大な子宮に宿った
無数の
人生
人生

人星

歪んだ時空間に漂いながら
それらを感じ取り
人から人へ
時代から時代へ
駆け巡って

圧倒的な幸せと
無力感を同時に感じる
神なんていなかった
誰も崇拝なんてしたくない

オレ達にとって神は
この広大な子宮そのもので
それは希望であり絶望的でもあった

自分の無力さを嘆いて流れ落ちた
オレ達の涙は
全宇宙を包み込んで
子を宿した女優を眠りに誘う

引き起こされるビッグバンは
オレ達のたった一つの希望で

それは誕生であり全てを無に帰す
完全な破壊でもある

今はまだそれを願いながら
時の流れに身を委ねていよう
女優の死体の傍らで



Credits
Lyrics powered by www.musixmatch.com

Link