セツナヒコウキ

東京へと続く白い道が
ゆっくりと青空に伸びてゆく
村はずれのひまわり峠から
出来たばかりの空港を
君と見てた



永遠に続く様なあぜ道で
干からびてミミズが死んでいる
ここにいたら僕も乾いてゆく
だから明日東京へと旅立つ

麦わら帽子の君がうつむく
お揃いのネックレス揺れる
さよならも言えず
君と視線があった

セツナヒコウキが
頭上2000フィートで
君が言った何かを掻き消した
そして二人は別れかたも知らぬまま
愛し合って愛し合ってゆく


最後までならなかった携帯の
電源落としながら思うのは
都会への期待でも不安でもなく
見送りに来なかった君のこと

動き出した飛行機の窓の外
ひょうたん山の麓をふと見れば
国道沿いのひまわり峠から
君が大きく手を振っていた

麦わら帽子が飛びそうなほど
何度も躓きよろめいて
精一杯君は何が叫んでいた

セツナヒコウキの
爆ぜるジェットエンジンが
君といた季節を掻き消した
そして二人は別れかたも知らぬまま
愛し合って愛し合ってゆく

恋と夢を乗せた機体が
航路を外れて急旋回空中分解して
そして僕は夢を選んで
落ちてゆく そこで目が覚めた

セツナヒコウキが
雲から抜け出し
スカイツリーが
寝ぼけ眼に突き刺さった
気圧差で音の消えた世界
荒れ狂う鼓動が埋め尽くした
東京

セツナヒコウキが時速200ノットで
悲しみを覚悟に昇華した
進め青春を
いつも明日照らすのは

そして太陽と無限大の群青



Credits
Writer(s): 熊谷和海
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