Shower

曇った窓に指をはしらせて
雑な似顔絵を描き合った思い出などない
似ても似つかないとケチをつけ
消してもちゃんと残った名画を笑えただろうにな

困ったことに月日は流れて
周りを取り巻く環境は随分と大人びた
駄菓子やテレビゲームなんてなくても
生きられるような人になんてそうなれるはずないのに

春の夜風の冷たさのどさくさに紛れて
肩が触れてからのことを鮮明に覚えている

まるでシャワーのように幸せを浴びせ合ってた あの頃はどうだった?
今は良くも悪くも落ち着きってものを備えながらここまで来たけど
シャワーの後にバスタブの中で立ち上る湯気のようにほら
いつだって僕らはお互いの顔を赤らめることが出来るはずなんだ
そう信じてやまない

曇った窓を晴らし走る車
電車に揺られた二人の背中を追い越した
昔住んでた部屋の前をうっかり通った時に灯った電気にスピードを落とした

6畳のワンルーム
でも壁はそこそこ厚く
近くに手頃なスーパーがあって買い物に困らず
コンビニだけは遠く 違う、駅もやっぱり遠く
帰り道に始まる夕飯のおかずウォーズ

あまりにもマジックアワーと呼ぶことは容易かったし 多分正しいのかな
だけど過去のままごとと比類ないくらいの幸せが今も降り注いでる
シャワーのように垂れ流す季節と衰えていく様の中
どうにか僕らは年甲斐ってものとそれなりに上手く付き合っていられてるから
冷めやることを知らない

写真を撮ることもなくなって 名前を呼ぶことも減っちまって
あまつさえ目を見て話すことさえ不可能になって
マルチタスクな家事と怒りやすくなった僕に
君はマスクの裏で分かりやすくため息ついた

そんな未来さえ憂いてた 僕たちはどうやら
そんな日々に辿り着くには子供じみすぎていた

あの頃のシャワーを今でも浴びせよう ふやけるくらいが多分ちょうど良いや
いつか肌や髪の毛の曲がり角さえも笑いに変えながら曲がればいい
シャワーの後にバスタブの中で立ち上る湯気のようにほら
いつだって僕らはお互いの顔を赤らめることができるはずなんだ
そう信じてやまない
蛇口が開き今日も 笑みがこぼれる

曇った窓に指をはしらせて
雑な似顔絵を描き合った思い出などなくても
駄菓子やテレビゲームに囲まれ
変わらないままで 変わったままで 暮らしていこうよ



Credits
Writer(s): 藤原 聡
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